【またやぶけの夕焼け】
高野秀行著、集英社、2015
鈴木読書も今日で20日目となる。今回紹介するのは、比較的最近上梓されたもので、郷愁を感じるような、懐かしさを誘うエピソードが詰め込まれた一冊である。
北上次郎氏の解説が非常に的確に本書を表現しているので、引用する。
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タイトルになっている「またやぶけ」とは長さ10メートルの土管のことで、遊び仲間のシゲオがその土管のなかを歩いている時足をすべらせ、その拍子に半ズボンの股の継ぎ目がビリビリッと破けたことに端を発する。そのとき「股がやぶけたあああ!」とシゲオが叫んだのでみんなで大笑い。ヒデユキたちも競って股やぶけに挑んだことから、その土管を「またやぶけ」と命名し、それ以来、彼らの秘密の遊び場所になる。
男の子なら誰もがどこかで経験したような、懐かしさが溢れだす小説だ。
(中略)
ここにいるのは少年時代の私だ。そう思わせるのが高野秀行の小説なのである。
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野球、プロレス、探検、秘密基地、クワガタ捕り、、、本書の遊びを挙げれば枚挙に暇がない。
改めて、子どもは固定観念にとらわれず、自由な発想に体を任せて遊ぶことが出来るものだと思う。
本書2つ目のエピソード「復しゅうの鉄橋」は線路のそばで話が展開される。
読んでいて、洋画の名作・スタンドバイミーを思い出さずにはいられなかった。
そういえば、あの映画も少年時代特有の探検にまつわるストーリーだった。
セリフ回しもキザっぽくて、見ていて痛快だった。
列車に襲われるドキドキ、年上の先輩への反発、大人たちへの(ちょっとした)恐怖など、手に汗握るエピソードである。
私の子ども時代も、年が2つ程上の近所の兄ちゃんたちに遊んでもらったことを思い出した。いつも金魚のフンよろしくついて回っていた。
ドキドキしながら線路を通ったりしたこともあったなぁ。
当時の自分にとって、世界はせいぜい自転車で回れる範囲内であり、学区外は恐ろしい世界であった。今考えれば少しおかしくて笑える。恐ろしい世界を探検するのも、また面白かった。
エンタメ・ノンフィクションという新しいジャンルを切り拓いた著者が著した本書。
「ここにいるのは少年時代の私だ」と、そう思わせてくれた一冊であった。
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